鶴の恩返し
昔々、雪がしんしんと降り積もる寒い冬の日のことです。あるところに、心やさしい一人の若者が住んでいました。
ある日、若者が山道を歩いていると、「バサバサッ」と雪の中から音が聞こえてきました。近づいてみると、一羽のつるが罠にかかって羽をばたつかせているではありませんか。
「かわいそうに……。こんなところでじっとしていたら、凍えてしまう。」
若者はそっとつるに近づき、罠をはずしてやりました。つるは自由になると、空を見上げて一声「クルル……」と鳴き、雪空へと羽ばたいていきました。
「元気でな。」
若者はにっこり笑って、家に帰りました。
それから数日後のことです。雪がまたちらちらと舞う夜に、戸を「トントン」とたたく音がしました。
「こんな夜に、誰だろう?」
戸を開けると、そこには見たことのない美しい娘が立っていました。
「道に迷ってしまいました。どうか、今夜だけ泊めていただけませんか?」
若者は快くうなずき、娘を家に迎え入れました。
娘は家事をよく手伝い、料理も上手で、若者の暮らしは少しずつにぎやかになっていきました。やがて二人は夫婦となり、助け合って暮らすようになりました。
ある日、娘は言いました。
「私に機織りをさせてください。ただし、決して部屋をのぞかないでください。」
若者は少し不思議に思いましたが、うなずいて約束しました。
娘は部屋にこもって、三日三晩、糸を織り続けました。そして出来上がった反物は、それはそれは美しいものでした。光をうけるときらきらとかがやき、雪のように白く、風のようにやわらかでした。
若者はその反物を街に持っていきました。すると商人たちは目を見張り、高い値で買い取ってくれました。
それからも娘は何度か反物を織りましたが、そのたびにやせ細っていきました。心配になった若者は、ついに約束を破って、部屋をそっとのぞいてしまいました。
そこには、見知らぬやせたつるが、くちばしで自分の羽をむしりながら、織り機を動かしている姿がありました。
「……あっ!」
思わず声をもらしたそのとたん、つるは織り機からふりかえり、こう言いました。
「私は、あの日あなたに助けてもらったつるです。お礼がしたくて、人の姿になってやって来ました。でも、もうあなたに本当の姿を見られてしまいました。……もう、ここにはいられません。」
娘――いや、つるは、やさしくほほえみました。
「今まで、本当にありがとう。どうかお元気で。」
そう言うと、つるはふわりと羽ばたき、空へと舞い上がっていきました。雪の中、白い羽が夜空に消えていくのを、若者はいつまでも見つめていました。
――それからというもの、若者はもう反物を織ることもなく、ただ静かに、つるとの思い出を胸にしまいながら、つつましく暮らしたのでした。
おしまい。
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- 鶴の恩返し(つるのおんがえし)-日本
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