「クズミア」(Kuzmija)-ボスニア
昔々、ボスニアの高い山のふもとに、小さな村がありました。その村には、古くから語り継がれる言い伝えがありました。
「山に迷ったとき、心を澄ませてごらん。クズミアが風の声で答えてくれる」
そう語るのは、いつも村人の薬を作ってくれるおばあさん。だれもクズミアを見たことはありませんが、困ったときに助けてくれる不思議な存在として、村では誰もが知っていました。
ある年のこと。村にひどい干ばつが続き、水も薬草も足りず、人々は不安な日々を過ごしていました。
そのとき、小さな少年ニコが、おばあさんの言葉を思い出しました。
「クズミアに会えたら、村を助けてもらえるかもしれない!」
誰にも言わず、ニコは朝早くに村を出て、ひとりで山の奥へと向かいました。
高い木々のあいだを抜け、岩だらけの道を登っていくうちに、夕暮れが迫ってきました。ニコは疲れ果て、石の上で泣きそうになりました。
そのとき、ふわりと風が吹き、笛のような音が聞こえました。
「なぜ泣いているのだ、子どもよ?」
目の前に現れたのは、白く長いひげを持った老人でした。けれど、目は若者のように澄んでいて、背中には山の草花が生えたような外套をまとっていました。
「あなたは…クズミアですか?」
「そうかもしれんし、そうでないかもしれん。でも、話してごらん」
ニコは、村の人たちが水も薬もなく困っていること、自分にできることがないことを、正直に話しました。
クズミアは黙ってうなずき、小さな銀の鈴をニコに渡しました。
「この鈴を持って、村の広場の泉に行きなさい。そして心を込めて、ひとつだけ願いごとを唱えるのだ。ただし、自分のためでなく、誰かのために願うこと」
ニコは急いで村に戻り、泉の前に立ちました。そして鈴を鳴らしながら、こう言いました。
「どうか、みんなが安心して水を飲めますように」
すると、泉の底から光が湧き、冷たくきれいな水があふれ出したのです!
村人たちは驚き、喜び、ニコにどうしてそんな奇跡が起きたのかを尋ねました。ニコはクズミアのことを話し、銀の鈴をみんなに見せました。
その日から、泉は二度と枯れることがなく、村には緑と笑顔が戻りました。
ニコの話を信じる者もいれば、夢だと思う者もいましたが、今もその泉のそばには、小さな石碑が立っています。
そこには、こう刻まれています。
「他のために願う心にこそ、山の精霊は力を貸す」
そして、風が鳴る夜には、どこからともなく鈴の音が聞こえてくるというのです。
おしまい。
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