Onedollar Wanderer

「ジャン・マルグリットの冒険」(Abenteuer des Jean Margerit)-スイス

ジャン・マルグリットの冒険はスイスの物語です。

昔々、スイスのアルプスのふもとに、小さな村がありました。その村に、ジャン・マルグリットという少年が住んでいました。ジャンは12歳。青い帽子がよく似合う、やさしい目をした少年です。

ジャンは毎朝、母さんと一緒にパンを焼き、ヤギのベルナとクララの世話をしてから、山道を歩いて学校に通っていました。彼の家の窓からは、大きなアルプスの山々が見えます。ジャンはその山の向こうに、だれも知らない「光の谷」があるという言い伝えを信じていました。

「いつか、ぼくはあの山の向こうに行くんだ。」

そうつぶやくと、母さんは笑って言いました。

「ジャン、冒険に行くには、強い心とやさしい心、両方がいるのよ。」

ある日、ジャンが森のはずれで薪を拾っていると、不思議な光が木陰からあらわれました。近づいてみると、それは小さなトカゲのような生き物で、背中に虹色の羽が生えていました。

「こんにちは、ジャン・マルグリット。わたしの名前はアルビ。光の谷を見たいなら、ついてきて。」

ジャンは目を見開きました。「どうしてぼくの名前を知ってるの?」

アルビはくすくす笑いながら言いました。「やさしい子は、いつもわたしに見つけられるのさ。」

ジャンはリュックに、母さんが焼いてくれた黒パンとチーズ、木のスプーンと水筒を入れて、アルビとともに出発しました。

最初の夜は、森の中の古い薪小屋で過ごしました。ふくろうがホウホウと鳴く中、ジャンは母さんのことを思い出して少しさみしくなりましたが、アルビが言いました。

「勇気とは、こわくないことじゃない。こわくても進むことだよ。」

次の朝、2人は深い霧のかかったつり橋にたどり着きました。下にはゴウゴウと音を立てる川。ジャンは足がすくみましたが、アルビがささやきました。

「こわければ、歌をうたいなさい。」

ジャンは小さな声で歌を口ずさみました。昔、母さんが寝る前に歌ってくれた子守唄。すると不思議なことに、霧が少しずつ晴れていき、道が見えてきました。

その後も、ジャンはさまざまな試練を越えていきました。つるつるすべる氷の谷では、ヤギのベルナの鈴を取り出して道を示しました。黒い森では、目を閉じて心の中の光を思い出し、光る石を見つけて抜け道を探しました。

三日目の朝、ジャンとアルビはついに山の頂に立ちました。そこから見えたのは、金色にきらめく谷。花がしゃべり、木々が踊り、水の精が笑う、まるで夢のような世界でした。

「ここが、光の谷?」

ジャンは目を丸くして聞きました。

アルビは静かにうなずきました。

「でもね、ジャン。これは君が持っていたやさしさと勇気が生み出したものなんだ。本当の光の谷は、きみの心の中にあるんだよ。」

ジャンはしばらく谷を眺めたあと、小さくつぶやきました。

「とってもすてき。でも。ぼくは帰るよ。母さんが、心配してるから。」

アルビはにっこり笑いました。そして羽を一度ふると、ジャンはふわりと浮き上がり、次の瞬間には、家の前に立っていました。

ヤギのクララが「メェ」と鳴き、母さんが戸口から走り寄ってきました。

「ジャン! どこに行ってたの!」

ジャンは笑って言いました。

「ちょっと、山の向こうを見てきたんだ。」

それからというもの、ジャンは毎日元気に暮らしました。光の谷の話をしても、信じる人は少なかったけれど、ジャンの目には、ほんとうの光が宿っていました。

そしてジャンは、心の奥にあるその谷を、だれかが迷ったときにそっと照らしてあげることができる、そんな大人になっていったのです。

おしまい。