Onedollar Wanderer

「スティッチ」(Sitić)-ボスニア

スティッチはボスニアの物語です。

昔々、ボスニアのとある谷に、木造の家々が並ぶ村がありました。

その中に、小さな家に住む女の子ラヤと、そのおばあさんが暮らしていました。

ラヤは元気で優しい子でしたが、ときどき大切なものをなくしてしまったり、机の上の物が勝手に動いていたりと、不思議なことがよく起きていました。

ある日、ラヤが作りかけの人形をなくして泣いていると、おばあさんがにっこり笑ってこう言いました。

「それはスティッチのしわざだよ」

「スティッチ?」ラヤが聞き返すと、おばあさんはそっと耳打ちしました。

「スティッチはね、この家のすみっこに住む、小さな守り手の精霊なんだよ。

きれいに片づけて、やさしい気持ちで過ごしていれば、スティッチは必ず返してくれるさ」

ラヤは半信半疑でしたが、その夜、部屋をきれいに掃除して、窓辺に小さなクッキーをひとつ置いて寝ました。

次の朝、人形はふとんの上に戻っていました。しかも、ちゃんと仕上げられていて、まるで誰かが夜中に縫ってくれたようでした。

「ありがとう、スティッチ…」と、ラヤは小さくつぶやきました。

それからというもの、ラヤは毎日少しずつ家の中の小さな場所、すみっこや棚の下、ふとんのすき間をきれいにするようになりました。

すると、少しずつ良いことが起こるようになったのです。

なくしたボタンが見つかったり、割れたお皿がくっついていたり、にがい薬が甘くなったり。

けれどある日、ラヤは怒ってしまいました。兄のマルコにおやつを取られて、腹を立てて、部屋を散らかしたまま寝てしまったのです。

その夜、変な音が聞こえました。チリチリ、ゴトン、スー…

目を開けると、豆粒くらいの小さな影が、部屋の中を行ったり来たりしています。それが、スティッチでした!

スティッチはくるくる回って、ラヤの顔を見て、ぴたりと止まりました。

「ここは、きれいな心の人が住む場所だった。でも今日はちょっとにがい匂いがする…」

ラヤははっとして、急いで起き上がりました。

「ごめんなさい、スティッチ。怒ってばかりだった。ちゃんと片づけるよ。兄にも謝る!」

スティッチは一瞬だけ微笑んだように見え、すっと煙のように消えていきました。

次の朝、部屋は静かで、空気が澄んでいました。ラヤは兄に謝り、ふたりで部屋を片づけました。そして、窓辺にクッキーを2つ、そっと置きました。

それ以来、スティッチはときどき家の中で小さな奇跡を起こしてくれるようになりました。ラヤとマルコは、夜になると「今日もスティッチが見ているよ」と言い合いながら、笑って眠りにつくのでした。

おしまい。