「ヨークシャーの幽霊犬ブラック・シャック」(Black Shuck: The Ghostly Hound of Yorkshire)-イギリス
昔、イギリスのヨークシャー地方には、夜ごとに現れるという不気味な犬の噂がありました。
その名は「ブラック・シャック」。
言い伝えによると、この犬は大きく、毛は黒く、目は火のように赤く光っていると言われていました。
ブラック・シャックはただの犬ではなく、霊的な存在であり、死者の魂を運ぶ役目を持っていると言われていました。
誰もがその姿を見ることを恐れ、特に夜の道を歩くときは、その影に怯えていたのです。
ある晩、若い男がヨークシャーの荒れた道を歩いていました。
彼は家に帰る途中で、暗い森を抜ける必要がありました。
薄暗い空に浮かぶ月明かりの下で、彼はひとりぼっちで歩いていました。
周りは静まり返り、ただ風の音だけが響いています。
道端には茂みが茂り、木々がざわめき、まるで何かが潜んでいるような不安な雰囲気が漂っていました。
急いで歩いているうちに、ふと足元に何かが触れる感覚がしました。
振り返ると、そこには何もありません。
ただ静けさが広がっていました。
しかし、その瞬間、彼は遠くから不気味な足音を聞きました。
どんどん近づいてくるその足音は、まるで巨大な犬が走ってくるような音でした。
恐れを抱きながらも、男はその音の正体を確かめたくなりました。
足音がさらに近づき、ついに月明かりに照らされたその姿が現れました。
それは、まさに人びとが噂していたブラック・シャックそのものでした。
犬のような体を持ち、目は赤く、光を放っていました。
全身は黒い毛に覆われ、その姿はまるで悪夢のように不気味でした。
男は立ちすくみました。
息を呑み、動けなくなった彼の目の前にブラック・シャックは静かに現れ、じっと彼を見つめました。
目は燃えるように赤く、まるでその目で全てを見透かすような鋭い光を放っていました。
男は恐怖に震えながらも、思わず声をかけました。
「君は…ブラック・シャックか?」すると、犬はまるで彼の言葉を理解したかのように、ゆっくりと首をかしげました。
その時、男は気づきました。
ブラック・シャックの周りには何か不思議な力が漂っているような気がしました。
彼の胸の中で不安と共に湧き上がる感覚、まるで死の予感が迫ってくるような気配。
それは確かに恐ろしいものでしたが、同時にどこか安らぎを感じるような不思議な存在でもありました。
ブラック・シャックは、何も言わずに男の目をじっと見つめたまま、ゆっくりと後ろを向き、暗闇の中へと消えていきました。
まるでその場所には最初から何もなかったかのように静寂が戻ったのです。
男はしばらくその場に立ち尽くし、心の中でその出来事を噛みしめました。
翌朝、村の人びとはいつも通りに集まり、男の姿を見て驚きました。
彼は無事に家に帰りつき、顔色も元気そうでした。
しかし、何かが違っていました。
男は、その夜に起きたことを一言も口にしませんでしたが、彼の目には、あの夜に見たブラック・シャックの赤い目が焼き付いているように見えました。
それ以来、男は夜道を歩くことを恐れなくなりましたが、ブラック・シャックの姿を再び見ることはありませんでした。
村ではその後も、ブラック・シャックの話が語り継がれ、夜の道を歩く者たちはその影に気をつけるようになったと言います。
そして今も、ヨークシャーの夜空の下で、ブラック・シャックの伝説は語り継がれています。
おしまい。
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