「黒猫と魔女の夜」(La Nuit de la Sorcière Noire)-フランス
むかしむかし、フランスの森のはずれに、
黒猫のノワールが住んでいました。
ノワールはつやつやの黒い毛に、
金色に光る大きな目をもつ猫でした。
けれど村の人たちは、ノワールを見るとこう言いました。
「黒猫を見ると、不吉(ふきつ)なことが起こるぞ!」
だからノワールはいつもひとりぼっち。
村の外れで、月を見ながらため息をついていました。
あるハロウィンの夜のこと。
森の奥から、ふしぎな歌声が聞こえてきました。
♪ ふけよ風 ともせ火よ 闇の夜に 魔法をひらけ ♪
ノワールがそっと近づくと、
そこには黒いマントをまとった魔女が立っていました。
「おやおや、かわいい黒猫さん。
今夜は“魔女の夜”よ。
一緒に空を飛んでみない?」
ノワールはびっくりしましたが、
胸がどきどきしました。
「ぼくなんかが……魔女といっしょに?」
魔女はにっこり笑って、ほうきを差し出しました。
「あなたの瞳には夜の光があるわ。
怖がらなくていいの。」
ノワールは思いきって、ほうきのうしろに乗りました。
魔女が呪文をとなえると――
「ヴワラ!」
ほうきはふわりと浮かび上がり、
森をこえて、村の上を飛びました。
ノワールは見下ろしました。
いつも自分をこわがっていた人たちの家々に、
ろうそくの灯りがぽつぽつとゆれて見えます。
「人間って、こわがりなのね。」
魔女が笑いました。
「ほんとうは、誰よりやさしいくせに。」
ノワールは思いました。
「ぼくもこわかったのかもしれない。
人に嫌われるのが……。」
そのとき、下の村で悲鳴があがりました。
火の粉が舞い上がり、家の屋根が燃えています!
「魔女さま、火が!」
魔女はほうきをぐっと下げ、
ノワールに言いました。
「あなたの出番よ、黒猫さん!」
ノワールはほうきから飛びおり、
井戸の水くみロープを引きました。
バシャッ! バケツの水が屋根にかかり、火がしゅうっと消えました。
村人たちは目をまるくしました。
「黒猫が、火を消した……?」
魔女は空の上から手を振りました。
「この子をこわがらないで。
夜の闇があるからこそ、灯りが美しく見えるのよ。」
それから、ノワールは村の守り猫になりました。
夜になると、家々のまえをそっと通り、
悪い夢を追いはらってくれると言われています。
そして、ハロウィンの夜になると、
月の高いところを飛ぶ黒い影が見えるそうです。
「あっ、ノワールと魔女がまた旅をしている!」
村の子どもたちはそう言って、
空に向かって手をふるのです。
おしまい。
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