「アナイト」(Anait)-アルメニア
昔々、アルメニアのとある国に、ヴァチャガンという若い王子がいました。ヴァチャガン王子は、立派な身なりで、弓も剣も得意。でも、学ぶことや働くことには興味がなく、毎日遊び暮らしてばかりいました。
ある日、王子は召使いたちを連れて、遠くの山に狩りに出かけました。山を越えて谷を下りていくと、小さな村にたどり着きました。そこで王子が見たのは、美しく聡明そうな娘、アナイトでした。アナイトは羊を世話しながら、本を読んでいました。
王子はその姿に心を打たれました。
「なんて美しい娘だろう。ぜひ妃にしたい!」
王子は馬から降りて、アナイトに近づき、こう言いました。
「美しい娘よ。私はヴァチャガン王子だ。どうだろう、私の妃になってくれないか?」
けれどアナイトは、しっかりとした口調で言いました。
「申し訳ありません、王子さま。私は、自分の力で生きていける人としか結婚しません。読み書きもできず、働いたこともない人とは、一緒に未来を歩けません。」
王子は驚き、そして少し腹も立ちましたが、アナイトの目は真剣で、心がこもっていました。王子はしばらく黙って考え、やがて言いました。
「わかった。私は自分を変えてみせる。」
王子は城に戻ると、まずは読み書きを学び始めました。最初は苦労しましたが、少しずつ本が読めるようになりました。それからは農民や職人たちの仕事も手伝い、働くことの大切さや、人々の暮らしの苦労を知るようになりました。
数年がたち、ヴァチャガン王子は、以前とはまったく違う立派な若者に成長していました。民の声に耳を傾け、自ら汗を流し、国の未来を真剣に考えるようになったのです。
そして王子は、もう一度アナイトの村を訪ねました。
「アナイト、私は約束どおり学び、働き、人の心を知った。今の私となら、共に歩んでくれるだろうか?」
アナイトは優しく笑い、「はい」と答えました。
二人は結婚し、やがてヴァチャガンは王となり、アナイトは賢く強い王妃となりました。アナイトの知恵と王のやさしさによって、国は平和で豊かになり、人々は幸せに暮らしました。
そしてふたりは、いつまでも仲良く、力を合わせて国を導いていったのです。
おしまい。
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