Onedollar Wanderer

「アルプスの歌姫」(Die Alpen Sängerin)-スイス

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アルプスの歌姫はスイスの物語です。

スイスの高い高いアルプスのふもとに、アンナという娘が住んでいました。アンナは、透きとおるような声を持つ歌姫で、毎朝、山々に向かって歌をうたいました。

♪ラ・ラ・ラー 雪の光が ほほえむ朝に

 ラ・ラ・ラー 風が運ぶよ 心のうたを♪

アンナの歌声は、風にのって谷を越え、森の動物たちも静かに耳をかたむけました。羊飼いたちは、歌を聴くと心があたたかくなり、疲れがすっと消えていくのです。

けれどある冬の日、雪がしんしんと降りつづける中、アンナが歌っていると、不思議なことが起こりました。

山の奥から、ふわりと光のような影があらわれたのです。影は、雪のように白く透けており、声もなく、やさしく手をのばしてきました。

「わたしたちは山の精霊。あなたの歌声に心をうたれました。どうか、私たちのもとへ来てください。歌を、永遠に、雪の中で…」

アンナは怖くありませんでした。不思議と心が静かになり、なにか大切なものに出会うような気がしました。彼女は雪の中を歩き、精霊たちについて山を登っていきました。

森をぬけ、氷の橋をわたり、静かな湖のそばへたどりつくと、そこには小さな光の宮殿がありました。精霊たちは歌いました。

「あなたに永遠の声を授けましょう。決して枯れず、決して疲れず。雪と風とともに、歌い続けられる力を…」

アンナはしばらく考えました。けれど、やがて、静かに首を振りました。

「いいえ。わたしの声は、みんなの笑顔といっしょにあるもの。わたしは、あの村で、みんなと歌っていたいのです。」

すると、精霊たちは黙ってうなずきました。彼らはアンナに魔法を与えませんでしたが、ほんのりあたたかな風を彼女のまわりに残してくれました。

村へ戻ったアンナを、みんなが心配そうに迎えました。

「どこへ行っていたんだい? まるで夢のように消えて…」

アンナはにっこり笑い、何も言わずに歌いはじめました。

その歌声は前よりもやさしく、深く、村人たちの心を包みこみました。声には魔法の力などなかったけれど、精霊たちとの出会いが、アンナの歌に新しい光をそえていたのです。

春がくると、谷のあちこちに小さな白い花が咲きました。人々はそれを「アンナの歌の花」と呼びました。

そして今も、アルプスの朝、風にのってやさしい歌声が聞こえてくると、だれもがふと立ち止まり、耳をすませるのです。

それは、遠い昔の、ある歌姫の物語。

おしまい。