「ボト・コル・デ・ローザ」(Boto cor de rosa)-ブラジル
昔々、ブラジルの広大なアマゾン川には、ピンク色をした不思議なイルカがすんでいました。その名も「ボト・コル・デ・ローザ」。このイルカは、ふつうのイルカではありません。ただ泳いでいるだけでなく、特別な力をもっていたのです。
ある満月の夜のこと、。村では年に一度のおまつりが開かれていました。人びとは歌い、踊り、おいしい食べ物を持ち寄って、にぎやかに夜をすごしていました。そんななか、突然、白いスーツに身を包み、つばの広い帽子をかぶった美しい青年が現れました。彼はどこからともなく現れ、村人たちに笑顔であいさつし、たちまちみんなの注目を集めました。
とくに若い女性たちは、彼のやさしい声と、まるで川のように澄んだ目に心を奪われました。その夜、彼は一人の女性と踊り続け、まるで時が止まったかのような時間をすごしました。
けれど、朝日がのぼるころになると、彼の姿は影のように消えてしまったのです。
不思議に思った村人たちは年長者にたずねました。すると、おばあさんがこう言いました。
「それはボトだよ。ピンクのイルカさ。」
「イルカ? 人間の姿をしていたのに?」村人たちはおどろきました。
おばあさんはうなずいて話します。
「ボトはね、満月の夜になると人間の男の姿に化けて、村のおまつりに現れるんだ。帽子をかぶってるのは、イルカの鼻先をかくすためさ。ボトは、だれよりもやさしく、うつくしく、そして、さみしがりやなんだよ。」
人間の世界を恋しがるイルカが、ほんの短いあいだだけ、人の姿で愛を求めにやってくる、そんな伝説は、アマゾンの村々で何世代にもわたって語りつがれてきました。
ある者は「本当にボトを見た」と言い、ある者は「それは恋の幻だ」と言います。
でも、今でもアマゾン川のほとりでは、満月の夜に水面をじっと見つめる人の姿があるのです。もしかしたら、またあのボト・コル・デ・ローザに出会えるかもしれないと信じて。
おしまい。
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