「死者の日の小さな魂」(El pequeño espíritu del Día de Muertos)-メキシコ
メキシコの山あいの小さな町。
オレンジ色の花「マリーゴールド」が道いっぱいに咲くころ、
人びとは**死者の日(ディア・デ・ムエルトス)**の準備をはじめます。
家じゅうにろうそくをともして、
天国の家族が帰ってこられるように、
あまいパンやくだものをお供えします。
その夜――。
ろうそくの光の中で、
ひとつの**小さな魂(たましい)**が、そっと目をさましました。
その子は、白くてふわふわした光のような姿。
名前は「ニーニョ」。
まだとても若くして天国へ行った、小さな男の子の魂です。
「ぼく、どこへ行けばいいんだろう……?」
ニーニョは心細そうに空を見上げました。
まわりには大人の魂がたくさんいて、
それぞれ自分の家へ帰っていきます。
でも、ニーニョの家は遠く、
道がよくわかりません。
風がそっと吹いて、花びらがひとひら落ちました。
そのとき、どこからか声がしました。
「こっちだよ、ちいさな子。」
ふりむくと、そこに黒い羽のフクロウが立っていました。
「わたしはカラカ。死者の国からの案内役さ。」
「ぼくの家、見つけられないんだ……。」
「ならば、花の道をたどるんだ。
マリーゴールドの花びらは、人間の祈りのしるし。
それが、君の帰る道を照らしている。」
ニーニョはフクロウに導かれて歩きはじめました。
風にのって、花びらがふわりと舞い、
その光の中に、ぼんやりと町の灯りが見えてきます。
やがて、小さな家の前にたどりつきました。
中では、お母さんとお父さんが祭壇の前に座り、
ろうそくの火を見つめながら祈っていました。
「ニーニョ、天国でも元気でいるんだよ。」
その声を聞いたとたん、
ニーニョの目から小さな光のしずくがこぼれました。
そっと祭壇の上のパンにふれた瞬間、
パンの上にきらりと光る粉が落ちました。
「ほら、お母さん。
パンが光ってる……!」
お母さんは微笑みました。
「きっと、ニーニョが帰ってきたのね。」
ニーニョは胸があたたかくなり、
もうさみしくありませんでした。
フクロウのカラカが空を見上げて言いました。
「さあ、夜が明けるよ。天国へ戻る時間だ。」
ニーニョはうなずき、
家族の笑顔をもういちど見てから、
朝の光の中へと消えていきました。
それからというもの、
死者の日の朝に光るパンを見つけた人は、
こう言うようになりました。
「それは、帰ってきた魂の“ありがとう”のしるし。」
おしまい。
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