「水の怪物」(Water Monster)-スカンジナビア
昔々、スカンジナビアの広大な湖の中に、恐ろしい水の怪物が住んでいると信じられていました。
その湖は深く、霧が立ち込めることで知られ、誰もその湖に近づくことはありませんでした。
人びとはその水の怪物、ウルリクと呼ばれる存在を恐れていたのです。
ウルリクは、湖の底から出てくることはほとんどなく、ただ静かに湖の水の中で眠り続けていました。
しかし、毎年、月が最も輝く夜になると、ウルリクは目を覚まし、湖の岸に近づくと言われていました。
その夜、人びとは必ず家の中に閉じ込め、火を灯して祈りを捧げるのです。
ある年の月明かりの夜、若い漁師のエリックは、他の漁師たちが怖れて湖に近づかなかった夜に、湖へと出かけました。
彼は大きな船を持っており、家族を養うために漁をする必要がありました。
しかし、他の漁師たちが恐れているのを見て、エリックは逆に興味を抱き、湖の秘密を確かめようと決心したのです。
「ウルリクなど、ただの伝説だろう」とエリックは自分に言い聞かせました。
「ただの古い話で、実際には何も起こらないはずだ。
」
エリックは船を漕ぎながら、月の光が湖を美しく照らすのを見ていました。
しかし、湖の中には不思議な静けさが漂い、すべてがひっそりとしていました。
その静けさが逆にエリックに不安を与えました。
しばらくして、突然、湖の水面が大きく波立ちました。
波が高くなると、エリックは恐れを感じ、急いで船を漕いで岸に戻ろうとしました。
しかし、その瞬間、湖の真ん中から巨大な影が浮かび上がり、船の前に現れました。
それは、ウルリク、湖の怪物そのものでした。
ウルリクは目を大きく見開き、鋭い牙をむき出しにして、エリックを睨みつけました。
大きな体と鱗が月の光に反射し、まるで悪夢のようでした。
「お前もこの湖を汚す者か?
」とウルリクが低い声で言いました。
その声はエリックの心の奥まで響き渡り、彼は言葉を失いました。
しかし、エリックは恐れを振り払おうと必死に答えました。
「私はただ、家族を養うために漁をしているだけだ!
私はあなたを傷つけるつもりはない!
」
ウルリクは少し沈黙した後、静かに言いました。
「お前のような者が現れるたびに、私は目を覚ます。
しかし、お前は恐れる必要はない。
もしお前が湖を敬い、自然と調和して生きるのであれば、私はお前に害を与えない。
だが、欲望のために自然を乱す者には、決して容赦しない。
」
その言葉を聞いたエリックは、心から反省し、深く頭を下げました。
「私は誓う。
この湖を敬い、自然を大切にする。
そして、もう二度と恐れることなく、誠実に生きていく。
」
ウルリクはその言葉を聞き、満足げに頷きました。
「その誓いを守り続ければ、恐れることはない。
お前には何も起こらないだろう。
」
ウルリクの姿は次第に薄れ、湖の水面は静かに戻りました。
エリックは深呼吸をし、船を漕いで岸に戻りました。
そして、翌朝、村の人びとに湖の秘密とウルリクの言葉を伝えました。
それからというもの、エリックは湖での漁を続ける中で、常に自然と調和を保ちながら生きました。
村の人びとも、湖を敬い、その美しさと力を守ることを誓いました。
ウルリクはその後も深い湖の底で静かに眠り続け、時々、月の夜にだけ現れることがありました。
しかし、彼が再び現れることは、エリックを含む村人たちが自然を尊重し、湖を大切にする限り、二度と恐ろしい出来事は起こらなかったと言われています。
おしまい。
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