「王を信じた少年」(The Boy Who Trusted the King)-エチオピア
むかしむかし、エチオピアの山あいの国に、
賢くて正義を愛する王さまがいました。
王さまはいつもこう言っていました。
「正直な心を持つ者こそ、わが国の宝だ。」
ある日、王さまは町へ出て、民の暮らしを見回りました。
そのとき、ひとりの少年が市場の片すみに座っていました。
少年の名はカベデ。
両親を早くに亡くし、村の人の手伝いをしながら生きていました。
王さまは旅人のふりをして近づき、尋ねました。
「少年よ、なぜそんなに熱心に働くのかね?」
カベデは笑って言いました。
「働くことは神さまに感謝することです。
わたしが正直でいるかぎり、きっと神も王さまも見ていてくださると思うんです。」
その言葉に王さまは感心し、正体を明かしました。
「わたしがその王だ。お前のような少年を見つけられてうれしい。
城に来て、わたしの使いとして仕えるがよい。」
カベデは驚き、やがて王に仕えることになりました。
城では多くの家臣がいて、カベデのまじめさをほめる者もいれば、
うらやむ者もいました。
とくに大臣の一人、バルタは、
少年が王に信頼されるのを見て面白く思いませんでした。
「小僧が王のそばに立つとはけしからん。
あの純粋な顔をして、何をたくらんでいるのか……。」
ある日、王さまが遠征に出ることになり、
留守をあずける者を決める会議が開かれました。
王は言いました。
「わたしの留守中、城をまもるのはカベデに任せる。」
家臣たちはざわめきました。
大臣バルタは腹を立て、悪だくみを思いつきました。
王がいないあいだに、バルタは人を集め、こう言いました。
「王の宝物庫が盗まれた! 犯人はカベデにちがいない!」
城の者たちは驚きました。
けれどバルタの言葉に逆らう者はいません。
カベデは泣きながら言いました。
「わたしは何も盗んでいません! 王さまを信じていました!」
けれど誰も信じてくれず、
カベデは牢に入れられてしまいました。
日が過ぎ、王が帰ってきました。
城の空気が冷たく、皆がそわそわしているのを感じました。
「何かあったのか?」と王が問うと、バルタが頭を下げて言いました。
「陛下の留守中、カベデが宝物庫から金の首飾りを盗みました。」
王は黙って考えこみました。
そして静かに言いました。
「その首飾りを、ここへ持ってこい。」
首飾りが差し出されると、王はそれを手に取り、
目を閉じて祈りました。
「この首飾りに真実の光が宿るなら、
盗んだ者の手の上で赤く光れ。」
すると――バルタの手の上で首飾りが真っ赤に輝き、
煙をあげて焼けつきました!
人々は驚き、ひざまずきました。
王は静かに言いました。
「わたしはカベデを信じていた。
正直な心は、どんな闇よりも強いのだ。」
カベデは牢から出され、王の前にひざまずきました。
「陛下……わたしは、ただ信じて待つことしかできませんでした。」
王は優しく笑いました。
「それでよい。正直者は、時に苦しむが、
最後には必ず真実が光を取り戻す。」
その後、王はカベデを側近にし、
国じゅうの子どもたちにこう教えました。
「正直な心をもつ者こそ、真の勇者である。」
人々はその言葉を代々語り継ぎました。
そして今も、エチオピアの山の村では、
夜の焚き火のそばでこう語られます。
「正直な心を持つ者の上には、
神の光が必ず降りそそぐのだ」と。
おしまい。
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