「赤い馬と白い馬」(Crni konj i beli konj)-ボスニア
昔々、ボスニアの山あいの小さな村に、イリヤという少年が住んでいました。イリヤは貧しい羊飼いの子で、毎日、森の近くで羊を追いながら空を見上げて過ごしていました。
ある日、イリヤが森の奥で迷ってしまい、霧の中をさまよっていると、真っ赤な馬が現れました。目は燃えるように光り、たてがみは風のように揺れていました。
「乗りなさい、イリヤ」と、馬は人の言葉で語りかけました。
イリヤは驚きましたが、不思議と怖くありませんでした。馬の背にまたがると、たちまち空へと駆け上がり、雲の上まで飛んでいきました。
赤い馬はこう言いました。
「私は情熱と力の馬。だが、力だけでは世界を壊してしまう。おまえに、もう一つの道も見せねばならぬ」
次の瞬間、赤い馬は姿を消し、代わりに真っ白な馬が現れました。その馬は静かで、目は月のように穏やかで、歩くたびに草が芽吹きました。
白い馬も言葉を話しました。
「私は知恵と静けさの馬。だが、静けさだけでは何も動かせぬ。おまえには、ふたつの道を知る力がある」
イリヤは、白い馬に導かれ、草原と泉、平和な村々を見て回りました。そこでは争いはなく、人々が助け合って暮らしていました。
やがて、赤い馬と白い馬がそろって再び姿を現しました。そして、イリヤにこう告げました。
「選ぶのだ、どちらの馬に乗って未来へ進むのか」
イリヤはしばらく考え、こう答えました。
「選べません。どちらも大切だから。力も、静けさも、必要な時があるからです」
その言葉に、赤い馬と白い馬は同時にうなずき、ひとつの金色の馬に姿を変えました。その馬は、太陽と月を背に走るような光をまとっていました。
「正しい答えを選んだな、イリヤよ。おまえの心が、ふたつの力を結んだのだ」
金色の馬はイリヤを地上に連れ戻し、彼を大人へと成長させました。そしてその日から、イリヤは村の賢者として人々を導く存在になったのです。
人々は今でも言います。
「人生には赤い馬と白い馬がいる。どちらかを否定するのではなく、その両方を心に宿せる者こそ、本当の強さを持っている」
おしまい。
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