「雪の女王」(Snedronningen)-北欧
むかしむかし、北の国にゲルダという女の子と、カイという男の子がいました。
ふたりはとなり同士に住み、まるで姉と弟のように仲良しでした。
春にはいっしょに花を育て、夏には川で遊び、冬には雪だるまを作りました。
ふたりはいつも笑いながら言いました。
「わたしたちはいつまでも友だちだよ!」
ところが、ある冬の日のこと。
空のずっと上で、悪い魔法使いがつくった“魔法の鏡”が割れてしまいました。
それは、きれいなものをすべてみにくく、
悪いものを大きく映してしまう鏡でした。
その鏡の小さなかけらが、
風に乗って地上へと降りそそぎました。
ひとつのかけらが――カイの目と心に刺さってしまったのです。
そのとたん、カイの世界は変わりました。
花はもう美しく見えず、ゲルダの優しさも、うっとうしく感じるようになりました。
カイは冷たい声で言いました。
「ゲルダなんて子どもっぽい。雪のほうがずっときれいだ。」
そう言って、吹雪の中へ歩いていきました。
そのとき、真っ白なそりに乗った美しい女王が現れました。
彼女こそ――雪の女王でした。
女王はカイの頬にキスをし、こうささやきました。
「私の国に来なさい。そこでは痛みも涙も、もういらないのよ。」
カイは氷のような目でうなずき、
雪の女王のそりに乗って、北の国へと消えていきました。
それから、カイは帰ってきませんでした。
春になっても、夏になっても。
ゲルダは涙を流しました。
「わたし、カイをさがしに行く!」
小さな靴をはき、川に花を投げ、風に祈り、旅に出ました。
途中、ゲルダはいろいろな人に出会いました。
花の魔女、カラスの夫婦、王子と王女、そして心やさしい山賊の娘。
みんなゲルダの純粋な心にうたれ、力を貸してくれました。
長い旅の果てに、ついにゲルダは雪の女王の城にたどり着きました。
そこは氷でできた広間で、すべてが冷たく光っていました。
そして、氷の玉座のそばに――
カイが座っていました。
顔は青ざめ、目は凍ったように冷たいままです。
氷の破片を並べて「永遠」という言葉をつくろうとしていました。
ゲルダは走り寄り、カイの両手を握りました。
「カイ! わたしよ、ゲルダよ!」
けれどカイは動きません。
ゲルダの目から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちました。
その涙がカイの胸に落ちたとき――
カイの心の氷が溶けました。
彼の目から、キラリと光るガラスのかけらが落ち、
あたたかい涙があふれました。
「ゲルダ……! ぼく、夢を見ていたんだね。」
ふたりは泣きながら抱きしめ合いました。
そのとき、雪の女王の城が静かにきしみ、
氷の壁がゆっくりと溶けはじめました。
女王の姿は北風にまぎれて消えていきました。
外に出ると、春の光が差していました。
鳥が歌い、花が咲き、川の水がきらきらと流れています。
ふたりは手を取り合って帰りました。
道は長くても、もう寒くはありません。
そして家に着くと、見慣れた屋根とバラの鉢がありました。
ゲルダが言いました。
「ねえ、カイ。雪の女王の国でも、春はちゃんと来るのね。」
カイはうなずきました。
「そうだね。心があたたかければ、どんな氷も溶けるんだ。」
二人の手のひらには、まだ少し冷たい風がふいていましたが、
その中に、やさしい春の香りが混じっていました。
――それが、ゲルダとカイの物語。
そして、真のあたたかさがどこから来るのかを教えてくれるお話です。
おしまい。
シェア