Onedollar Wanderer

「風と太陽の娘」(Vajza e Erës dhe e Diellit)-アルバニア

風と太陽の娘はアルバニアの物語です。

昔々、世界のはじまりのころ。空には風の王「エーリ」、そして光の女王「ディエッラ」がいました。ふたりは天の王国で愛し合い、やがてひとりの娘を授かりました。

その名はソリーナ。風の軽やかさと、太陽のあたたかさをあわせ持つ、美しく賢い娘でした。けれど、彼女は空の上での生活に満足せず、ある日こう願いました。

「わたしは人間の世界に降りて、本当の勇気と幸せがどこにあるのか知りたいの。」

両親は心配しましたが、ソリーナの決意は固く、最後にはこう言って送り出しました。

「3つの贈り物を授けよう。風の羽根、光のかけら、そして心の鏡。どれも1度しか使えない。よく考えて使いなさい。」

こうしてソリーナは空を旅立ち、地上へと舞い降りました。

最初にたどり着いたのは、戦争で荒れ果てた国。人々は憎しみにとらわれ、子どもたちの目には光がありませんでした。ソリーナは涙を流し、光のかけらを空に投げました。

すると空が晴れわたり、太陽の光が街を包みました。人々の心から怒りがすこしずつやわらぎ、笑顔が戻りはじめました。

次に訪れたのは、冷たい北の村。風が吹きすさび、人々はお互いを疑い、心を閉ざしていました。ソリーナはそっと風の羽根を放ち、やさしいそよ風に変えました。

その風は、人々の家々に暖かさと香りを運び、みなが窓を開けて、隣人と話しはじめました。

最後にソリーナがたどりついたのは、どこよりも静かな町。そこでは、誰も泣かず、笑わず、怒らず、感情のない仮面をつけて暮らしていたのです。町の人々は言いました。

「感情は争いのもと。喜びも悲しみも、いらないのです。」

ソリーナは戸惑いました。この人たちは平和に見えます。けれど、どこか寒々しく、誰の心も動いていないのです。

そのとき、彼女は最後の贈り物、心の鏡を取り出しました。そして町の広場に立ち、大きな声で呼びかけました。

「この鏡を見てください。そこに映るのは、あなたのほんとうの心です。」

最初に見たのは、ひとりの少女でした。鏡には、ひとりぼっちで泣いている自分の姿が映りました。次に見た男の子は、歌いたいのに声を押し殺している自分を見ました。

やがて町の人々が次々と鏡をのぞきこみ、それぞれの「ほんとうの気持ち」に気づいていきました。

誰かが笑い、誰かが泣き、誰かが叫びました。そうして町は、長い沈黙を破って生きた音を取り戻しました。

ソリーナは天を見上げました。もう贈り物は使い切っていました。でも、彼女の心は満ち足りていました。

風が吹き、空から声が聞こえました。

「ソリーナよ、おまえは本当の勇気と幸せを見つけたな。さあ、帰っておいで。」

空に舞い戻ったソリーナは、それからもときどき地上にそよ風を送り、あたたかな光を差し込み、人々の心に語りかけているといいます。

いまも風がふと頬をなでるとき、それは、風と太陽の娘、ソリーナがそっとあなたに話しかけているのかもしれません。

おしまい。