Onedollar Wanderer

アラブ首長国連邦の迷信

アラブ首長国連邦(UAE)では、イスラム教を基盤としつつ、アラブの遊牧民文化や古代中東の信仰が融合した独自の迷信や言い伝えが今なお生き続けています。 現代的で国際的な都市国家でありながら、人々の暮らしや価値観の根底には、こうした迷信が自然に組み込まれており、特に家庭や子育て、日常のふるまいの中に見え隠れしています。 まず縁起が良いとされているものの代表例に、「ナザル(邪視除けのお守り)」があります。 これは青や黒の目の模様をしたビーズなどで、嫉妬や悪意を含んだ視線(アイン、ハサド)から人や物を守ると信じられています。 イスラム教では邪視(ハサド)は現実に存在するとされており、クルアーン(コーラン)にもその影響から身を守る祈りが含まれています。 ナザルの使用自体はイスラム教の教義に根差すものではなく、トルコやペルシャ文化から入ってきた民間信仰の影響ですが、UAEでも家庭や自動車、赤ちゃんの服などに広く使われています。 また、「香(バフール)」を炊くことも縁起の良い行為とされます。 バフールは伝統的な香木を焚いて香りを立てるもので、悪霊や邪気を追い払い、空間を清めるとされています。 この習慣はイスラム以前のベドウィン(遊牧民)の浄化儀式に由来する部分もあり、今では来客前の儀礼的な意味合いも込められています。 さらに、「右手で物を受け渡す」ことも重要視され、これはイスラム教における「右は清浄、左は不浄」とする考えに基づき、右手を使うことが礼儀であり、縁起が良いとされています。 一方、不吉とされる迷信も根強く存在しています。 たとえば、「夜に爪を切ること」は不吉とされ、運や富が逃げると言われています。 これはイスラム文化圏全体に広く見られる迷信で、夜は霊的存在が活発になる時間帯であるという古い信仰に由来しています。 また、「赤ちゃんを褒めすぎると悪いことが起こる」という迷信もあり、特に「かわいい」「賢い」といった言葉を繰り返すと、邪視を引き寄せてしまうと信じられています。 そのため、褒めた後に「マシャアッラー(神が望まれるままに)」という言葉を添えて、神の守護を願うのが一般的です。 さらに、「くしゃみ」に関する迷信もあり、誰かがくしゃみをした際には「ヤルハムカッラー(神のご慈悲を)」と言うのが礼儀です。 これは単なる礼儀作法でもありますが、くしゃみをすると魂が一瞬体から離れると考えられていた古い信仰が背景にあり、祝福の言葉でそれを守るという意味も込められています。 このように、UAEにおける迷信はイスラム教の教えと古代の民間信仰、さらに周辺地域の文化的影響が混ざり合って形作られています。 現代的な社会の中でもこうした信仰は完全に忘れ去られることはなく、家族や地域の絆、礼儀や慎み深さを支える文化的な土台として生き続けているのです。